クラブ史上初のチャンピオンズリーグへ、野心と現実のはざまで
クラブ史上初となるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場を控えるコモに、意外な問題が浮上している。エースストライカーのアルバロ・モラタが、登録リストから漏れる可能性があるというのだ。
原因は、今夏の補強の中身にある。セスク・ファブレガス監督は「我々の難しさはCLで出てくるだろう。リストをそろえることも含めて、選手層が薄くなってしまう。トップクラブのような強力な下部組織にはまだ頼れない」と、UEFA登録リストの完成に苦労することをあらかじめ認めていた。
25枠のうち、自クラブ育成4枠と自国(イタリア)育成4枠の計8枠が義務付けられているが、今夏の主要補強のうちイタリア人はマッティア・リベラーリただ1人。要件を満たせなければ、その枠は空席のまま提出することになる。
野心的な補強を進め、CLという大舞台を目前にしながら、コモは同時にいくつもの壁に直面している。今夏の補強の中身と、その裏にある野心、そして立ちはだかる3つの課題を整理する。
今夏の中心にいた2つの決断
今夏のコモを語る上で欠かせないのが、ニコ・パスとマッティア・リベラーリの2人だろう。
ニコ・パスは、レアル・マドリー下部組織出身のアルゼンチン人MFで、コモでのプレーぶりが高く評価されてきた。今夏はレアル・マドリーが買い戻しオプションを発動。そこまでは予想通りの動きだった。そこからレアル・マドリーに残るのか、インテルなどに移籍するのかが注目されたが、最終的にはコモに戻ってきた。
決着したのは、本人の強い意思だった。ジャンルカ・ディ・マルツィオ記者によれば、ニコ・パスはアルゼンチン代表の合宿からミルワン・スワルソ会長とファブレガス監督に直接メッセージを送り、残留に向けてできる限りのことをしてほしいと伝えたという。『Transfermarkt』によると、移籍金は6600万ユーロとされている。
リベラーリは、ミランの下部組織が生んだ19歳のトレクァルティスタだ。1年前にミランを離れてカタンザーロに加入し、2025/26シーズン後半戦のセリエBでブレイクを果たした。
今夏、古巣ミランが破格の条件を提示して復帰を迫り、親会社レッドバードのジェリー・カルディナーレまで直接交渉に乗り出した。それでもリベラーリが選んだのは、金額でもブランドでもなく、ファブレガス監督が用意する「一貫したプロジェクト」だった。
●ミランの至宝からコモの新たな主役へ――マッティア・リベラーリが選んだ「後悔なき自立」の道
コモのカルラルベルト・ルディSDはリベラーリについて「我々がやりたいことの象徴となるような才能を獲得できた。それがリベラーリだ。彼が、その最初の1人であってほしいと思っている」と語っている。今夏の主要補強のうち、イタリア人はリベラーリただ1人という事実は、後述するイタリア人枠問題にも直結する。
補強はこの2人にとどまらない。守備陣ではチェルシーからトレヴォー・チャロバーを3000万ユーロで完全移籍させた。この争奪戦にはインテルも名乗りを上げていたとされ、スワルソ会長はインタビューで、イギリス人選手を巡ってもう一つのイタリアのクラブと競合していると報じられたため、相手クラブの会長(実際には名指しをしていないがインテルのマロッタ会長)に直接電話をかけ「欲しいなら譲る、その代わりお宅の選手を1人くれ」と冗談交じりに持ちかけたというエピソードを明かしている。
このほか、ブラジル人DFカイキをクルゼイロから、ヤン・コウトをボルシア・ドルトムントからローンで獲得するなど、守備・中盤の顔ぶれも入れ替えている。中盤にはヘタフェからルイス・ミジャも加わった。
野心を支えるもの
コモの積極的な補強を支えているのは、インドネシアの実業家一族、ハルトノ兄弟の資金力だ。ロベルトとマイケルの兄弟は、フォーブスの長者番付で個々に世界トップ150入りするほどの資産家で、セリエAの他クラブオーナーと比べても際立った存在だ。
ただし、コモの補強は単に資金力に任せたものではない。
スワルソ会長は、クラブの方向性についてこう語っている。
「自分たちはサッカークラブというより、スポーツを軸にした観光地なのかもしれないと考えた」。
●「UEFAの良きメンバーになりたい」コモ会長スワルソ、罰金の可能性にも動じず
コモ市の人口はおよそ8万5000人という小さな街だが、スワルソによれば、自身が関わり始めた当時190万人だった観光客数は、直近では560万人まで伸びているという。
主力を安易に手放さない姿勢も、この野心を裏付けている。
今夏はFWアサン・ディアオに6000万ユーロ、MFマルティン・バトゥリナに5500万ユーロのオファーがあったとされるが、いずれも拒否した。主力を売って収支を合わせるのではなく、抱え続けて長期的な価値を高める方針がうかがえる。
立ちはだかる3つの壁
野心と資金力に支えられたコモだが、クラブ初のCLを戦う上で、無視できない3つの課題も抱えている。
イタリア人枠問題
1つ目は、イタリア人選手の少なさによる登録リスト問題だ。
UEFAの登録リスト(Aリスト)は25名で構成され、そのうち自クラブの下部組織出身選手4名、自国(イタリア)で育成された選手4名の計8枠が義務付けられている。要件を満たす選手がいない場合、その枠は空席のまま提出しなければならない。
今夏の主要補強のうちイタリア人はリベラーリのみで、新たにイタリア人FWを獲得しない限り、継続的にローテーションに入るイタリア人は事実上リベラーリだけという状況だ。『Transfermarkt』のデータでも、コモの登録選手38人のうち外国籍は30人、比率にして78.9%にのぼる。
除外リスクがあるとされる選手として、アンドレス・クエンカ、アレックス・バジェ、イグナス・ファン・デル・ブレンプト、エイドリアン・ラード、ニコラス・キューン、ジェイデン・アダイらの名前が挙がっている。さらに、コモが新たなストライカーの獲得を決断した場合、アルバロ・モラタでさえも登録漏れとなる可能性があるという。
ルディSDはこの点について「イタリア人が増えるに越したことはないが、1人のイタリア人のためにチームのアイデンティティを変えるつもりはない」と述べており、UEFAの要件よりもファブレガス監督のスタイルに合う選手を優先する姿勢を崩していない。
FFP・財政規律
2つ目は、財政面の規律だ。
イタリアメディアの報道によると、コモは2023/24シーズン(セリエB最終年)に約5000万ユーロ、2024/25シーズン(セリエA初年度)にはクラブ単体で1億500万ユーロ、グループ連結では1億3200万ユーロの赤字を計上している。コストが収入の約3倍に達している計算だ。
UEFAの財政持続可能性規則では、3年間の累積損失は原則6000万ユーロ(条件付きで9000万ユーロ)までしか認められておらず、現地メディアはコモの3年累計がこの上限を大きく超える見通しだと報じている。
加えて、選手・監督の給与や移籍金の償却などの合計が関連収入の70%を超えてはならない「スカッドコスト比率」についても、2024/25シーズンの人件費が8600万〜9400万ユーロ、移籍金の償却負担が3100万ユーロを超えることから、70%のラインを上回っている可能性が高いと指摘されている。
コモがこの状況を放置しているわけではない兆候もある。ニコ・パスの残留合意が固まった際には、クラブが今年FFPの基準に入ることを認識した上で、制裁は先送りにしてでも決断したという報道があった。実際の契約設計を見ても、ヤコボ・ラモンを2030年まで、エイドリアン・ラードを2031年までといった長期契約を結ぶことで、移籍金の償却負担を複数年度に薄く伸ばす手法を採用しているほか、ニコ・パスやラモン、ヘスス・ロドリゲスらの契約には、将来の売却益をレアル・マドリーなどと分け合う条項が盛り込まれているとされる。
スワルソ会長自身も、クラブを「テーマパークやメディア、マーチャンダイズを束ねるディズニーのような存在」にすると語っており、チケット収入の倍増やマーチャンダイズの拡大など、サッカー以外の事業でクラブの収入基盤を広げる方針を明らかにしている。会長本人は「UEFAの上限を7500万ユーロ下回っており、2〜3年でFFPの要求を満たせる」「初めてヨーロッパに出るクラブには一定の猶予がある」とも述べていた。
仮に基準を超過した場合も、UEFAの規則上は即座の失格や欧州カップからの除外ではなく、まず超過額に応じた罰金や登録枠の制限が科されるのが通常の流れだ。近年、資産力のあるオーナーが赤字を補填しているクラブが即座に追放された例はなく、UEFAとの是正合意を結んだ上で数年かけて基準に近づけていくケースが多い。
(注:ここで挙げた財務数字は現地報道に基づく推定であり、コモが公式に開示した詳細な決算そのものではない)
スタジアム収容数
3つ目は、物理的な制約であるスタジアムの収容人数だ。
コモの本拠地ジュゼッペ・シニガリアの収容人数は12064人で、セリエAでも最小規模に属する。それでいて、2025/26シーズンの平均収容率は94.71%にのぼり、セリエA全体でもユヴェントス、ミラン、インテルに次ぐ高水準だった。空席が多いわけではなく、常にほぼ満席の状態が続いている。
●セリエA2025/26シーズン観客動員ランキング:ミランがインテルとの接戦を制す。収容率ランキングはユヴェントスに軍配
スワルソ会長自身、この規模感について「自分たちの街の人口はわずか8万5000人。1万5000人を埋められたら大喜びだ」と語っており、クラブとしても限界を自覚した上でブランドを作ろうとしている姿勢がうかがえる。
実際、会員規則を巡っては、正当な理由なく3試合以上欠席した会員の更新権を失効させる、対戦相手のチームカラーを着用しないよう求めるといった厳格なルールが導入されており、チケットの争奪戦がクラブ運営にも影響を及ぼしている実情がある。
小さな街の小さなスタジアムという制約は、マッチデー収入の天井にもつながる。CLという最大の舞台で、この物理的な限界がどこまで足かせになるかは、今後注視すべき点だろう。
期待と不安が入り交じる新シーズンへ
クラブ史上初のCLを迎えるコモは、野心的な補強とその裏付けとなる資金力、そして選手たちから寄せられる信頼という、確かな追い風を受けている。
一方で、イタリア人枠、財政規律、スタジアムの収容力という3つの壁は、シーズンが進むにつれて存在感を増していくはずだ。
勝負のシーズンを前に、モイーズ・ケーンの獲得も噂されるコモ。そうなった場合、モラタに登録外を言い渡すのか。
期待と課題が同居するコモの今シーズンから、しばらく目が離せそうにない。

