エンターテインメントコンテンツとしての価値上昇に期待
セリエA第37節でジェノアに勝利し、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向けて前進したミランは、それまでの1週間にクラブの周囲を覆っていた不穏な空気を一時的に和らいだ。
しかし、ピッチ外におけるミランの動向からは、今後のクラブの命運を左右する重大な動きが透けて見える。現在、オーナーであるレッドバードのジェリー・カルディナーレは、ミランの組織再編のみならず、新たな財務戦略の実行に向けて奔走している模様だ。
『ミラノ・フィナンツァ』の報道によると、カルディナーレはミランの全株式を手放す意思はないものの、少数株を売却する可能性を検討しているという。その筆頭候補として浮上しているのが、スカイダンス・メディアの創設者でありパラマウント・スカイダンス・コーポレーションのCEOを務めるデヴィッド・エリソン、そしてその背後にいるエリソンファミリーである。
世界屈指の資産規模を誇るエリソンファミリー
エリソンファミリーの中心に位置するのは、オラクル・コーポレーションの創設者であり、世界有数の大富豪として知られるラリー・エリソンだ。同氏の資産は2026年現在も2000億ドルを安定して超えており、仮に将来的にミランの評価額が30億から40億ユーロ規模に達したとしても、その買収や出資は個人の資産規模からすれば極めて限定的な負担にとどまる。
ラリー・エリソンは以前からスポーツへの投資に強い関心を示しており、テニスのインディアンウェルス・テニスガーデンの所有や、国際ヨットレース「SailGP」の共同創設など、メディアおよび戦略的資産としてのスポーツビジネスに深く関わってきた。
さらに、息子のデヴィッド・エリソンが率いるスカイダンスは、2025年にレッドバードの資金協力を得てパラマウント・グローバルとの経営統合を完了。現在のパラマウント・スカイダンス・コーポレーションを形成しており、カルディナーレとエリソンファミリーは長年にわたる強固なパートナーシップ関係にある。
メディア戦略と「ミラン」の価値
この両者のつながりは、ミランというクラブを単なるフットボールチームではなく、グローバルなエンターテインメントコンテンツとして飛躍させる可能性を秘めているという。
パラマウント・スカイダンスは2025年12月にワーナー・ブラザース・ディスカバリーへの巨額の公開買付けを発表するなど、メディア業界での影響力を急速に拡大している。現在、パラマウント傘下の「CBSスポーツ」はアメリカにおけるUEFAチャンピオンズリーグおよびセリエAの放映権を保持しており、ミランのアメリカ向け放送を担うプラットフォームそのものが、すでにエリソンファミリーのビジネスエコシステム内に組み込まれている状態だ。
配信プラットフォーム間の競争が激化するなかで、世界中に数億人のファンを抱えるミランのブランド価値は、ストリーミングビジネスの強力なコンテンツになり得る。出資が実現すれば、ドキュメンタリーや限定シリーズの制作といった、メディア展開を中心としたシナリオが現実味を帯びてくる。
新スタジアム計画が握る未来の3つのシナリオ
しかし、この巨大な提携が本格化するかどうかは、サン・シーロに代わる「新スタジアム計画」の進捗に完全に依存している模様だ。
法的なリスクや行政手続きの手詰まりが解消され、近代的なスタジアムの建設が確実視されれば、クラブの評価額は大幅に上昇し、世界のトップクラブと比肩する「トロフィー資産」へと変貌を遂げる。
法曹関係者の分析によると、今後の展開には3つのシナリオが想定される。
- 段階的な少数株取得: エリソンファミリーがスカイダンス・スポーツやファミリーオフィスを通じてクラブ株の10〜25%を取得する。レッドバードが経営権を維持しつつ、スタジアム建設の初期資金やメディア戦略を共同で推進する。
- 完全買収への移行: スタジアムが完成すると見込まれる2029年から2030年にかけて、レッドバードが投資回収のサイクルを終えるタイミングで、エリソンファミリーが株式の大半、あるいは全社を買収する。潤沢な資金力を背景にした、最も野心的なシナリオである。
- 投資見送り・撤退: イタリア特有の官僚主義や政治的な要因によりスタジアム計画が数年にわたり停滞した場合、エリソンファミリーは関心を失い、より市場予測可能性が高いプレミアリーグやアメリカのスポーツリーグへと投資先を切り替える。
レッドバード体制下において、ミランはこれまでの4年間、自給自足の経営を続けてきた。前オーナーであるエリオットが2018年の買収以降、資本増強や債務解消のために多額の資金を投入したのに対し、レッドバードはクラブ自身のキャッシュフローによる運営を求めている。そのため、3000万ユーロを超える大型補強にはカルディナーレの承認が必要となるなど、移籍市場での動きにも一定の制約が存在する。
ミランが競技面においてインテルなどのライバルに対抗し、真に持続可能な勝者であり続けるためには、これ以上の足踏みは許されない。エリソンファミリーという巨万の富とメディアの覇権を持つパートナーの視線は、現在、ピッチ上の結果以上に「サン・シーロ再開発というプロジェクトが、この国で本当に具現化するかどうか」に注がれている。
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