アクチュアル・プレーイングタイム増加が生んだ劇的勝利と、その裏で消えたファウル
「以前は、試合終盤は見ていられたものではなかった。選手はピッチに倒れ込み、試合はまるで進まなくなる。我々は苛立っていたものだ。これは大事に守るべきことだ。カルチョを変えたのだから」
ローマ対アタランタ戦後の記者会見。終盤の2ゴールで逆転勝利を収めたあと、ジャン・ピエロ・ガスペリーニは、このように話していた。
「称賛」という異変
セリエAは長年、判定を巡る論争が絶えないリーグだ。議論好きという国民性も相まって、ビッグマッチでどちらかに不利な判定があれば、次の試合までその話題が続くものだ。
しかし、開幕からわずか3節を終えたところで、複数の指揮官の口から審判の采配を称賛する声が相次いでいる。これは近年のセリエAでは珍しい現象と言っていい。
インテルがナポリに2点差から逆転勝利を収めた一戦のあと、クリスティアン・キヴ監督はこう述べた。
「この3節における審判の采配について、称賛を送りたい。試合の流れが途切れず、面白い。もう時間稼ぎもない。誰もが納得できる基準を保ってくれている」
コモのセスク・ファブレガス監督も、開幕節のウディネーゼ戦後にこう語っている。
「新しいルールは非常にいい。試合のリズムを大きく引き上げている」
何が変わったのか――5秒・10秒・1分ルール
今季セリエAが採用した新ルールの骨子は既報の通り。基本的には、FIFAワールドカップ2026で採用されたものを持ち込んでいる。
●セリエA、2026/27シーズンからの新ルール(2026/8/22)
スローインとGKのボール保持は5秒、交代は10秒、負傷治療を受けた選手は原則1分間ピッチに戻れない。レーガ・セリエAのCEOであるルイジ・デ・シエルヴォは導入時、「多くの変更はプレーが止まっている場面に関するものであり、実質的なプレー時間を増やし、試合をより躍動的で見応えのあるものにすることが狙いだ」と説明していた。
これらのルール自体はプレミアリーグやラ・リーガも同様に導入している。セリエAだけが特別ではないが、明らかな変化があったことは確かで、各メディアがアクチュアル・プレーイングタイム(実質プレー時間)の増加を指摘している。
アクチュアル・プレーイングタイムの推移
『スカイ』の集計によると、開幕節の平均アクチュアル・プレーイングタイムは57分53秒だった。前季通算平均の54分10秒、前季開幕節の53分03秒をいずれも上回る数字だ。第2節はさらに伸びて62分01秒に達し、アタランタ対ボローニャでは69分01秒を記録している。
第3節終了時点でも、アクチュアル・プレーイングタイムは平均3分33秒上昇していることが確認されている。『スカイ』は、「この新ルールは、GKへのバックパスのルールの変更のような画期的なものになるかもしれない」と記した。
劇的勝利の連続
実際、開幕3節では終盤の劇的な展開が相次いだ。
第3節、インテルはナポリに0-2から追いつき、逆転。決勝点は後半アディショナルタイムに入ってからのラウタロ・マルティネスだった。
同じ第3節、ローマはアタランタに1点を追う展開から終了間際にエルモソが同点弾を沈め、さらにアディショナルタイムにスレが逆転ゴールを叩き込んだ。冒頭のガスペリーニのコメントは、この試合を受けたものだ。
ユヴェントス対ミランでも、後半アディショナルタイムにガッティが同点ゴールを記録している。
試合終盤、ビハインドを背負うチームは、リスクを承知で仕掛ける。リードをしているチームはいかに時間を稼ぐかが重要で、それを怠ると、経験不足などを指摘されるのが常だった。
5秒・10秒・1分という新ルールは、まさにその時間帯を狙い撃ちにしている。今季増えたアクチュアル・プレーイングタイムの多くは、終盤に偏って戻ってきていると読める。
その裏で、消えてきたファウル PKはゼロ
一方で、ここまでの30試合で、セリエAではPKが一度も与えられていない。オンフィールドレビューも一度も実施されなかった。
見逃されたとされる場面もいくつかある。第1節のジェノア対ナポリでは、デ・ブライネがバスケスと接触した末のゴールに笛は吹かれず、デ・ロッシ監督は怒りをあらわにした。第3節のインテル対ナポリでは、ロボツカのハンドの疑いがあったものの、プレーが継続された。同じく第3節のユヴェントス対ミランでは、デ・ヴィンターがファウル気味にコロ・ムアニからボールを奪った流れからミランの得点が生まれたが、そのままゴールとして認められた。
そもそもファウルの線引きがかなり緩くなった印象は強く、その線引きをしてしまったがゆえに、試合を通してファウルを取りにくくなっている側面はありそうだ。そういったプレーで選手が危険にさらされえることになれば、問題視される可能性はある。
どちらが正しいかを、決めることはできない。ただ、際どいプレーは吹かない、という基準に、この3節は一貫して沿っているようにも見える。増えたアクチュアル・プレーイングタイグで、よりスリリングな試合が増えたのは好材料だ。
その裏で、これまでファウルだったものが、そうではなくなっているのも事実だ。その失われたものが前面に出たとき、ダニエレ・オルサート率いる審判団がいまの基準を貫き、各クラブがそれを支持し続けられるだろうか。

