勝利に埋もれた『良心』と、繰り返される議論
「どこかの監督が『失礼、審判が私を有利にしてくれた』と言うのを見てみたいものだ。自分のチームに不利な判定が下された時だけ、いつも不平を言う」
2月14日に行われたユヴェントス戦の前日会見で、インテルのクリスティアン・キヴ監督は、高潔な態度でこう話していた。審判のミスを寛容に受け入れようと説くその姿は、殺伐としたカルチョ界に現れた「新たな良心」のようであった。
しかし、インテルが3−2で勝利した翌日、『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙は、キヴに鋭く嚙みついた。
「言葉で言うのは簡単だが、行動にするのは難しい。インテルの指揮官はほかとは違うと思われていたが、結局はほかの監督と同じように振る舞った」
かつての名DFは、「歴史を変えるチャンス」を、自らの手で捨て去ったと捉えられた。
疑惑の42分と、介入できなかったVAR
今回のイタリアダービーは、前半終盤に起きた騒動の話題に終始している。
42分、インテルのアレッサンドロ・バストーニがファビオ・ミレッティのパスをインターセプト。そのままドリブルで持ち上がるタイミングで、ユヴェントスのDFピエール・カルルと交錯して転倒した。フェデリコ・ラ・ペンナ主審はこれをファウルと判定。すでに警告を受けていたカルルに対し、2枚目のイエローカードを提示して退場を命じた。
リプレイ映像が映し出されると、誤審という見方が一気に強まった。カルルは確かに左腕を上げてバストーニに触れているが、相手の勢いを殺すほどの接触ではない。少なくとも、バストーニが顔を覆って派手に倒れ込むような力強さは、そこには存在しなかった。
数的優位を得たインテルは、終了間際にピオトル・ジエリンスキが決勝弾を挙げて3−2と競り勝ち、スクデットへ大きく前進した。だが、試合後に残ったのは、勝者への称賛ではなく、後味の悪い論争だけだった。
「受け入れがたい」ユヴェントスの憤怒
ユヴェントス陣営は、退場判定の直後から怒りを爆発させていた。前半終了時には、ロッカールームへ引き上げようとするラ・ペンナ主審に対し、ジョルジョ・キエッリーニら幹部が激しく詰め寄る姿が確認されている。
試合後、ユヴェントスは選手たちにかん口令を敷いた。ミックスゾーンに選手を立たせず、メディア対応は首脳陣が引き受けるという異例の事態となった。
カメラの前に立ったディレクターのキエッリーニは、こう語った。
「今夜起きたことは受け入れがたい。カルチョについて語ることは困難だ。これがイタリアサッカーが提供すべきショーなのか? 最も重要な試合が、性急で不適切な裁定によって台無しにされた」
ダミアン・コモリCEOもまた、「我々は勝ち点3を失ったが、イタリアサッカーはそれ以上に多くのものを失った」と、この夜の出来事がセリエA全体の汚点であると強調した。
インテルがつくったキヴの二枚舌
一方、注目されたのは勝者であるキヴ監督の対応だった。“高潔な姿勢”を行動で示す機会だったかもしれないが、インテル指揮官はバストーニを擁護することにプライオリティを置き、煮え切らない、ありふれたコメントだった。
「私に言わせれば、カルルの接触は軽いものだったが、確かに存在した。すでに警告を受けているのであれば、経験のある選手はあのような接触は避けるべきだ」
さらに、「100年前から、サッカーとはずっとそういうものだ」と、よくあるエピソードであることを強調した。
キヴは試合後の会見に登場するまで、1時間以上かかった。その間、ジュゼッペ・マロッタ会長ら首脳陣と話し合い、これから記者に問われることへの対応を協議していたことは容易に想像できる。
その意味で、今回のキヴの発言は、インテル全体の選択と言っていい。
これこそが、冒頭の『コッリエレ・デッラ・セーラ』が「欺瞞」と断じた点だ。同紙は、キヴとインテル幹部の対応を「周辺の劇場(安っぽい芝居)」と切り捨てた。
「キヴ、マロッタ、そしてインテルは、歴史を変えるチャンスを逃した。もし彼が『あれはシミュレーションだった、申し訳ない』と言えていれば、彼は伝説になれたはずだ。だが、結局は勝利という魔力の前には無力だった」
審判委員長が認めた「明らかな誤り」
判定が誤審というのは、もはや公式見解だ。
イタリア審判委員会(CAN)の責任者であるジャンルカ・ロッキは、『ANSA通信』の取材に対し、判定が誤りであったことを認めた。
「非常に遺憾に思っている。ラ・ペンナの判定は明らかに誤りであり、それを修正するためにVARを使用できなかったという点についても遺憾だ」
VARのプロトコル上、イエローカードの判定には介入できないという「抜け穴」が、最悪の形で露呈した形だ。しかしロッキは、主審を擁護しつつ、選手たちの倫理観にも苦言を呈することを忘れなかった。
「真実を言えば、ミスをしたのは彼一人ではない。昨日の試合では明らかなシミュレーションがあった。このリーグでは、あらゆる手段で我々を欺こうとする者が後を絶たない」
これは、接触を大げさにアピールしたバストーニへの明確な非難だ。
インテリスタのジレンマ
SNSは試合中から大荒れだった。
ユヴェンティーニの怒りは当然だが、インテリスティも複雑だ。映像を見れば誤審であることは明白であり、手放しで勝利を喜べる状況ではない。
『FcInterNews』でフィリッポ・トラモンターナ記者は、次のようにこう述べた。
「キエッリーニの指摘はもっともだ。だが、インテルが不利なジャッジを受けたとき、みんなはどこにいたのだろうか? インテルが不利なときは誰も騒がないが、インテルが有利な判定を受けると、途端に世界が崩壊したかのように騒ぎ立てる」
インテル寄りの人の多くは、「歴史的に見て誤審に救われてきたのはユヴェントス側だ」という、今回の試合とは無関係な過去を持ち出して応戦するのが精一杯だった。
イタリアダービーでよかった…?
泥沼化する論争を、冷ややかな目で見つめる者もいる。
今回の騒動のプロローグのような出来事が、第24節ジェノア対ナポリで起きていた。ナポリはアントニオ・ヴェルガーラが疑惑のPK獲得でナポリが劇的勝利を収めている。
その“被害者”となったジェノアのダニエレ・デ・ロッシ監督は、『ラジオRai』でこう語った。
「もう何がファウルで何がそうでないか、わからなくなっている。疑わしい場面ではみんな自分に有利に文句を言うだけだ」
「見たことについて言えるのは一つだけだ。いい面があるとすれば、この出来事がインテル対ユヴェントスで起きてよかった、ということだ。何が起きたかを全世界が見たという点でね」
地方クラブでの誤審は無視されるが、イタリアダービーでの誤審は世界的なスキャンダルになるのだ。
置き去りにされた「カルチョ」
本来であれば、若き才能フランチェスコ・ピオ・エスポジトがディ・グレゴーリオの牙城を崩したヘディングシュートや、ピオトル・ジエリンスキの美しい決勝点、そして、10人で長い時間を耐え抜いたユヴェントスの守備について語られるべきだった。
しかし、それらはすべて、笛の音と炎上騒動に埋もれてしまった。
『DAZNイタリア』のコメンテーターを務めたエルナネスは、この現状を嘆いた。
「来季は呼ばれても来ないよ。ここで話しているのはルールの話ばかりだ。私がコメントすべきはミレッティのパスミスについてであり、こんなことではない」
カルチョの話をしよう——。VARの導入後も、イタリアサッカー界の論争の的は変わっていない。
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