苦しむエースがかつての輝きを取り戻すためには…
インテルのラウタロ・マルティネスは、2024/25シーズンの得点減少が話題になり続けている。前シーズンの得点王は、本当に不調に陥っているのだろうか。『カルチョ・ダタート』が、データを基にカピターノのパフォーマンスを分析した。
データで示される得点減少の理由
まず、90分あたりのシュート数はラシン在籍時以来の最低値で、ゴール期待値(xG)もイタリア初シーズン以来の低い数字になっている。これを見ると、ラウタロの得点が減っているのは当然と言える。
では、それの原因はどこにあるのだろうか。これは、多くの専門家が指摘しているとおり、ラウタロとマルクス・テュラムの関係性の変化が理由が挙げられる。今季のラウタロはフィニッシャーではなく、つなぎ役としての仕事が増えていることがプレーエリアからも見てとれる。
ロメル・ルカクと組んでも、エディン・ジェコと組んでも、ラウタロは同様の役割をこなしてきたが、最近は相手センターバックを引き連れてハーフウェーラインよりも下がってボールをさばくこともあり、こうなるとゴール前に顔を出すのは簡単ではない。
昨季は決定力がずば抜けていたためフィニッシャーとしての仕事が多かったが、今季は「通常の決定力」に戻り、ラウタロが受けてテュラムが裏に抜けるパターンが増えている。
少し脱線すると、テュラムは昨季のラウタロのように、決定力が抜群に高い。同メディアは、昨季と今季のテュラムのデータを検証。テュラムのxGは昨季と今季でほぼ変わっていないが、一方で、xGに対する得点が昨季は「34」だったのが今季は「99」に激増しており、大したチャンスでもない場面で多くのゴールを決めていることは明らかだ。
ただ、テュラムにしても裏抜け専門の選手ではなく、組み立てに関与するタイプ。シモーネ・インザーギ監督は、ThuLaを使ってチーム全体を押し上げて、攻撃的な両ウイングバックに高い位置を取らせることが多い。FW以外に得点チャンスが増える影響で、FWのチャンスが減っていると読み解くこともできる。
ラウタロは不調なのか
インテルの戦術の進化がラウタロの得点減少につながっているのは事実としてありそうだ。では、ラウタロが好調なのか不調なのかというのはどうだろうか。『カルチョ・ダタート』は、xGと実際の得点数の比率を計算することでラウタロの決定力を評価している。
これによると、今季のラウタロは0.9で、2022/23、23/24シーズンと比べるとはっきり下がっている。2020/21、21/22シーズンは1.0で、これと比べても若干下がっている。
ただ、シーズンごとにシュート数も違うため、この指標で判断するのは難しく、次に「ベイズ統計(Empirical Bayes=EB)」を用いて分析を進めた。
これは簡潔に説明すると、個々のデータをチーム全体の傾向と組み合わせて評価を出すもの。今回は2017年以降、ヨーロッパ主要リーグで50本以上のシュートを放った選手のデータを用いて全体の傾向を設定した上で、個人の成績がどこに分布するかを計算している。
EBを考慮して算出したデータによると、ラウタロの「ゴール/xG」は1.0で、ほぼxGどおりの得点数を挙げていることになる。過去2シーズンは1.1〜1.2で、xGより約15%得点が多く、このときの決定力が異常に高かったということだ。
クロス増の影響
それでも、ラウタロの決定力が下がったという意見はあるだろう。それはチャンスの質がかかわっているかもしれない。次にヘディングの決定力に注目しよう。
ラウタロは身長174cmで決して長身ではないものの、身体の使い方や動き出しの妙で、ヘディングで多くの得点を決めてきた。しかし、過去2シーズンでその決定力は下がっている。過去2年半でラウタロのヘディングゴールを集計すると、1得点に必要なxGは2.0超、つまり、ヘディングで1ゴールを挙げるために必要なチャンスが2倍以上となっている計算で、期待値の半分程度しか決めていないことになる。インテルはサイドからのクロスがより多くなっており、ラウタロはヘディングの得点チャンスが増えたが、肝心の決定力がついてこず、不調という印象を与えているようだ。
ゴールの波とメンタル
チームの戦術とラウタロの能力により、得点の減少はある程度説明がつきそうだ。だが、さらに分析を進めると、FWの心理も影響を与えている可能性が見えてくる。
『カルチョ・ダタート』は、ラウタロがゴールを決めてから、次のゴールを決めるまでにどれほど掛かるかということを計算した。これは単純に時間だけでなく、xGの累積を測定している。
ラウタロはインテル加入後、約66%の得点は、これが1xG未満で決まっている。2022/23シーズンは74%だったが、23/24シーズンは61%、そして今季は57%と低下を続けているところだ。
昨季はシーズン最初の8得点のうち7得点が1xG未満で決まっており、ゴール量産という印象を強く与えた。昨季終盤からは前回の得点から1xGを超えることゴールが多く、今季は3xGを超えることも。
プレッシャーには慣れているはずだが、1xGを超えて期待に応えられていないことを実感するとメンタル的に厳しくなり、さらに次のゴールまで時間が掛かる傾向にあることをデータが示唆した形だ。
例えば、ゴールが遠ざかる時間が長くなることで、シュート時に冷静さを欠いたり、意識的にゴールを狙いすぎてしまうこともFWにはよくある傾向だ。最近の試合では、有利な展開になるとチームメートが意識的にチャンスでラウタロにボールを渡すシーンもあり、仲間の優しさがかえってカピターノの圧力となっている可能性もある。
データから見える結論
ラウタロは決定力の高いストライカーから、インテルに貢献するため、ゲームを組み立てるFWに進化した。戦術の中で中盤まで下がることも多く、チャンスそのものが減った。
さらに、インテルの攻撃がサイドを軸としているため、ゴール前での決定機はヘディングで飛び込む形が増えており、その決定力が良くないことで、得点数が減っている。
ただ、得点数が伸びない現在もチャンスには絡んでおり、長期的に見れば大きな問題ではなさそうだ。
ラウタロにとって重要なのは、いかに早く得点を挙げられるか。FWとしてゴール間隔が空くことは精神的な負担になりやすく、チャンスを逃す度にその負担は増していく。
現在のラウタロは、得点数こそ減少しているものの、インテルの戦術変化の中で新たな役割を担い、重要な貢献を続けている。不調ではなく、役割の変化、プレースタイルの変容と捉えてもいい。
とはいえ、FWとして重要なのはゴール数であることも事実だ。心理的な負担を軽減し、早い段階で得点を挙げることが、再び量産体制に戻るカギとなるだろう。