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底知れない闇…。ウルトラスとマフィア、違法活動に揺れるイタリアサッカー

インテルとミランのクルヴァ関係者一斉逮捕でスタジアムは変わるのか

イタリアでは現在、ピッチの話題以上に注目を集め、議論を呼んでいる話題がある。イタリアのクラブ、特にインテルとミランのウルトラス(サポーターグループ)の関係性が、カルチョ界に影を落としている。クルヴァの一部は、ただの熱狂的なサポーターグループではなく、実は組織犯罪の担い手でもあった。イタリアサッカー界の根深い問題には、マフィアの存在があるのかもしれない。

インテルとミランのウルトラスメンバー19人を逮捕

9月30日、インテルとミランのウルトラスの主要人物19人が一斉に逮捕された。チケットを回すようにクラブに指示をするなど、さまざまな違法行為が明るみに出ている。

特にインテルは、ウルトラスが強い影響力を持っているとされ、従属的な関係にあったことが指摘されている。ミラノ検察は、インテルとミランに不適切な関係を断ち切るように求め、両クラブに無観客試合やスタンドの一部閉鎖などの制裁が科せられるかもしれない。

インザーギやシュクリニアルとも直接やりとり

この騒動で逮捕された1人が、マルコ・フェルディコという男だ。インテルファンにはお馴染みのグループ「クルヴァ・ノルド」のリーダー格の人物である。彼は、UEFAチャンピオンズリーグ決勝のチケット問題でクラブに圧力をかけ、シモーネ・インザーギ監督に直接この問題をなんとかするように話したことが盗聴で明らかになり、捜査が進められた。これにより、他のウルトラスメンバーも逮捕される結果となった。

フェルディコはクラブに対しても強く意見を言える立場だったとされている。『トゥットスポルト』によると、2023年初頭、フェルディコはインテルのサポーター・リエゾン・オフィサーであるマッシミリアーノ・シルヴァを通じて、2023年6月に満了する契約を延長する意思がないミラン・シュクリニアルと会談したいと伝えた。フェルディコはピネティーナ(インテルの練習場)へ行くと提案したが、当時CEOだったジュゼッペ・マロッタ会長がピネティーナは人目につくということで、シュクリニアルの提案でサン・シーロ近くで会うことになったという。クルヴァ・ノルドのメンバーであるマウロ・ネピとともにシュクリニアルと話したあと、フェルディコは「シュクリニアルの契約延長は無理だ。彼は放出される予定だったが、ブレメルを獲得できなかったから放出できなかった」と電話で話したことが記録されていたという。

クルヴァ・スッドのボスも

ミランのウルトラス「クルヴァ・スッド」では、絶対的なボスとされるルカ・ルッチが逮捕された。

こちらは以前から悪名高く、2009年のミラノダービーでインテル側が掲げた横断幕を巡って騒動となった際、インテルのサポーターであるヴィルジリオ・モッタに暴行を加えて、片方の眼を失明させる事件を起こした。その後、モッタは2012年に自殺。ルッチは懲役4年を求刑された(司法取引で1年4カ月に減刑)。

ルッチは、スタジアム出禁となっていたが2018年に当時の内務大臣であるマッテオ・サルヴィーニと握手をしたことで注目された。サルヴィーニはミラニスタであることで知られている議員だが、そういった人物がいわく付きの男と公の場で握手を交わしたことで、政治家として問題があると大きな批判を浴びている。ルッチは、そのほかにも麻薬取引など犯罪歴は多岐にわたる。

捜査結果の一部を知らせられたイタリアサッカー連盟(FIGC)は、インテルとミランの調査を開始。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、このような無許可の組織との不適切なつながりが確認された場合、2万ユーロの罰金を科せられる可能性がある。最悪の場合は、セリエAそのものから失格ということもあり得るが、こちらは執行猶予付きではないかと予想されている。10月2日時点の報道では、クラブ幹部が直接やり取りした証拠はなく、あくまでクラブは被害者という認識だが、それでも、クラブとウルトラスとの不適切な関係が疑われている。

なぜクラブが従うのか

なぜ、世界的ビッグクラブが、そのサポーターグループの言いなりになるのか。一般的なサッカーファンには理解できない感覚だが、マフィアの存在が背後にあると考えられている。

クルヴァ・ノルドでフェルディコよりも上の立場にいた人物であるアンドレア・ベレッタは現在、同じクルヴァ・ノルドのメンバーであるアントニオ・ベロッコ殺害の罪で収監されている。ベロッコはイタリア4大マフィアの一つ「Ndrangheta(ンドランゲタ)」の人間で、それも有力ファミリーに属していたそうだ。ベレッタは口論の末に自衛としてベロッコを刺したとされているが、いずれにしてもクルヴァ・ノルドとマフィアがただならぬ関係であることがこの騒動でより一層浮き彫りになっていた。

クルヴァ・ノルドの話題が中心となっているが、ミランやそのほかのクラブも無関係ではない。

『Rai』が10月1日に報じたところによると「Ndrangheta」の影響力はスタジアムのグッズ販売、飲食販売、駐車場管理にも及んでいた。サッカースタジアムを舞台にクルヴァがカネを稼ぎ、マフィアに流れていたという構図が想像できる。

インテルとミランのクルヴァは、スタジアムの安全のために過度な争いをしないように努めているというのが一般の認識だが、実際にはウルトラス上層部は、互いが利益を得るために協力関係にあったという。

また、盗聴の一つで、前述のルッチが2020年にナポリ戦のチケットをカモッラ一家(Ndranghetaとは別のイタリア4大マフィア)に提供するために動いていたことも確認されているそうで、闇の深さは底知れない。

過去にクラブがウルトラスとの関係を断ち切ろうとした事例も存在するが、容易ではなかった。

ラツィオのクラウディオ・ロティート会長は、こういった勢力と距離を置こうと積極的に動いた人物だったが、チケットの無償提供などを拒絶したため脅迫や報復に遭い、個人警護をつけざるを得なくなったことがある。ユヴェントスのアンドレア・アニェッリ元会長は2010年代後半、クルヴァとの関係が疑われた際、潔白を証明するために関係を断とうとしたことで対立が激化し、ウルトラスに襲撃を企てられたことがあると言われている。

クルヴァに逆らうとマフィアの報復が待っているとしたら、クラブが強く出られないというのも理解はできそうだ。

健全なスタジアムを取り戻せるのか

イタリアのウルトラスとマフィアにつながりがあることは、以前からそれとなく知られていた。しかし、今回の騒動でその規模が途方もないものであることが分かってきている。イタリア北部のビッグクラブにも強い影響力があるとしたら、マフィアの拠点がある南イタリアでの関与がさらに深いと考えるのも、自然な想像だ。

普通にチケットを購入して、スタジアムでカルチョを楽しみたいだけの健全な一般ファンは、完全に浄化され、再び好きなチームの戦いぶりや戦術、移籍について、ああでもないこうでもないと議論する日が戻ってくることを望んでいることだろう。

だからこそ、イタリアが国としてどう動くかが問われている。マフィアが深く絡んでいるとなれば、国にとっても大きな問題だ。このスキャンダルは、カルチョ界に留まらず、イタリア全体の腐敗を暴く契機となるかもしれない。

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